ショウジョウバエ生殖細胞特異的に発現しているArgonauteタンパク質Piwiは、Piwi-interacting RNA(piRNA)と呼ばれる小分子RNAと結合し、転移因子の抑制や遺伝子発現の調節を担っている。我々は、これまでの研究で得られた知見をもとに、ショウジョウバエ卵巣体細胞特異的に存在する細胞質顆粒構造体Yb bodyにおいてpiRNAの前駆体となるRNAが成熟化しPiwiと結合するというモデルを提唱した。しかし、piRNA生合成に関与するRNA切断酵素の存在は明らかにされておらず、150kbにわたるゲノム領域から転写された長鎖RNAがどのようなプロセシング経路をへて25~30塩基長の成熟型piRNAになるのかは不明だった。 当該年度において、我々は遺伝学的解析からpiRNA生合成に必須であることが示されていたZucchini(Zuc)と呼ばれるタンパク質の構造解析および生化学的解析を行った。その結果、ZucがpiRNA前駆体を切断することで成熟型piRNAを生成するエンドリボヌクレアーゼであることを見出した。piRNAは5'末端にリン酸基を持つが、zucにより切断されたRNAの5'末端もリン酸化されていたことから、zucがpiRNAの5'末端を決めるRNA切断酵素であることが示唆された。また、Zucはミトコンドリア外膜上で二量体を形成すること、ミトコンドリアがYb bodyと近接して局在することを示し、Yb bodyにおいてpiRNAの成熟化が起こるというモデルを指示する結果を得た。本研究により初めてpiRNA生合成に必須のRNA切断酵素の実態が明らかとなり、その成果はNature誌に受理された。
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