本研究は、細胞シート作製時間を短縮するために、種々の細胞増殖因子と複合体を形成するヘパリンを温度応答性培養皿に修飾した次世代型温度応答性培養皿の設計を目的とする。本年度は、温度応答性培養皿表面上にヘパリンを固定化する手法の検討を行った。具体的には、N-イソプロピルアクリルアミド(IPAAm)と同様な骨格でカルボキシル基を有する2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド(CIPAAm)を合成し、電子線照射によりポリスチレン製培養皿上にIPAAmとCIPAAmの共重合体をグラフトし、表面にカルボキシル基を有する温度応答性培養表面を調製した。さらに、作製した温度応答性培養皿表面のカルボキシル基とヘパリンの水酸基を縮合反応により共有結合し、ヘパリンを表面修飾した。ヘパリン修飾量は、カチオン性のトルイジンブルーの表面吸着量から換算することで定量することができた。ヘパリン修飾温度応答性培養皿の表面電位は、ヘパリン修飾量の増大にともない負に帯電することがわかった。よって、本手法によりヘパリンを共有結合的に温度応答性表面に導入することがあきらかとなった。また、ヘパリン修飾温度応答性培養皿においても細胞の増殖および脱着を温度制御することが可能であった。さらにヘパリン修飾温度応答性培養皿に細胞増殖因子の一種である線維芽細胞増殖因子(FGF)を固定化し、マウス線維芽細胞を培養したところ、ヘパリンおよびFGFを固定化していない温度応答性培養皿を用いた場合に比べて細胞の増殖能が向上することを確認した。次年度以降は、固定化する増殖因子の量と細胞増殖速度の関係についてあきらかにするとともに、ヒト由来細胞など他の細胞についても検討する。
|