研究課題/領域番号 |
10J57081
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
有坂 慶紀 東京女子医科大学, 大学院・医学研究科, 特別研究員(DC1) (70590115)
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キーワード | 温度応答性培養皿 / ヘパリン / 細胞増殖因子 / ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) |
研究概要 |
患者の細胞を採取してから細胞シートを作製するまでの時間は、細胞種によって異なるが数週間を要し、細胞シート作製のための培養設備に関わるコストは、患者や医療施設にとって大きな負担となる。さらに、移植までに細胞数が足りなければ、再び患者から細胞を採取する可能性もあり、患者のQOLを低下させる。細胞シート作製時間の制御は、それらの課題にとって解決策となり、細胞シート治療における臨床研究への本格化を加速させる技術となる。そこで本研究では、細胞増殖を促進する次世代型温度応答性培養皿の設計することにより細胞シート作製時間の短縮を目的とする。本年度は、ヘパリンを表面修飾した温度応答性培養皿を作製した後、ヘパリンと親和性の高い塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)をアフィニティー固定した。アフィニティー固定したbFGF量は、放射性ヨウ素(^<129>I)を標識化したbFGFを用いて定量した。固定化したbFGF量が増大するにともないマウス由来線維芽細胞の倍加時間が加速され、コンフルエントとなる細胞数に達するまでの時間が、最大で40%短縮した。この結果は、固定化するbFGFの量によって細胞シート作製時間を制御できることを示唆している。つぎに、ヘパリン修飾の効果を評価するために、ヘパリン用いずにbFGFを物理吸着させた温度応答性培養皿を作製し、細胞培養を行った。bFGFを物理吸着させた温度応答性培養皿においてもポリスチレン製細胞培養皿と比較して細胞増殖が促進された。しかしながら、ヘパリンを介してbFGFをアフィニティー固定した培養皿と比較すると著しく細胞増殖性が低下した。この結果は、ヘパリンを介してbFGFをアフィニティー固定することにより、bFGF活性の低下を抑制できることを示唆している。以上の結果は、ヘパリンを介したbFGFの表面固定が、細胞増殖因子固定化方法として効果的に細胞増殖を促進させる非常に有用な方法であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、細胞シート作製時間の短縮を可能とする温度応答性培養皿の開発であり、本年度までに線維芽細胞の増殖速度を加速させ、培養時間を40%短縮することに成功している。また、細胞増殖因子の固定化量によって、細胞がコンフルエントになるまでの時間を制御できる新規温度応答性培養皿として期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに線維芽細胞の細胞シート作製時間を短縮したが、その他の細胞種においても本研究で開発した細胞増殖因子を固定化ヘパリン修飾温度応答性培養皿は、有用であると考える。また、ヘパリンは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や肝細胞増殖因子(HGF)をはじめとした多くの細胞増殖因子と強く相互作用するため、ヘパリン修飾温度応答性培養皿表面を用いればbFGFと同様にVEGFやHGFを表面固定が行えると予想される。そこで、細胞腫に応じて固定化する増殖因子を選択し、細胞シート作製時間を短縮できる細胞種の探索を検討する。さらに、ヘパリン結合ドメインを有する接着タンパク質であるフィブロネクチンを用いることにより、細胞増殖の促進と同時に細胞接着を高める温度応答性培養皿について検討する。
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