反陽子を用いた反物質科学

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10NP0101
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 小牧 研一郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (40012447)
• 研究分担者: 森田 紀夫 岡崎国立研究機構, 分子科学研究所, 助教授 (30134654) ; 早野 龍五 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (30126148) ; 山崎 泰規 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30114903) ; EADES John CERN研究所EP/APE division, 上級研究員 ; 上村 正康 九州大学, 大学院・理学研究科, 教授 (10037210)
• キーワード: 反陽子 / エキゾティック原子 / 反物質 / レーザー分光 / CERN / トラップ原子 / 超低速反陽子ビーム / CPT対称性

研究概要

本研究の目的は、CERN研究所に建設中の反陽子減速器(AD:平成11年秋に稼働開始)において生成する超低速反陽子ビームを用いて反陽子と原子の衝突、反陽子原子の生成・分光等を行うことである。実験計画は、CERN研究所においてASACUSA実験(低速反陽子を用いた原子分光と原子衝突)として承認されている。今年度は、本実験開始に向けて実験装置の開発・建設と、実験計画の詳細の検討を進めた。
1.ADからの5MeVの反陽子を数十keVまで減速する反陽子線型減速器(RFQ)の制作にCERN加速器部門の協力を得て着手した。
2.ADから5MeV反陽子の取り出しに成功、さらに、反陽子ヘリウム原子を生成し、レーザー共鳴の観測により建設した反陽子原子レーザー分光装置の性能を確認した。
3.昨年度東京大学(駒場)に建設した反陽子トラップでは、(a)冷却用電子の数、密度、形状のコントロール、(b)反陽子冷却のシミュレーションとしての水素負イオン冷却、など、RFQからの反陽子を捕獲して更に減速するための要素技術をほぼ確立した。
4.反陽子トラップからの引き出しビームラインの設計、軌道シミュレーションを行い、これに基づき、ビームラインを設計製作し、昨年度設置したイオン源から供給される水素負イオンによる輸送実験を開始した。
5.理論グループは、組替え座標結合法により反陽子ヘリウム原子のエネルギー準位を計算し、実験値と7桁の精度での一致を見た。また、反陽子、反陽子原子と原子の衝突を分析する計算理論、計算コードの開発を行っている。2月に理論研究会を開き、1年間の総括と来年度の計画を討論した。
6.ASACUSA実験計画の詳細を議論するため、国際ワークショップを開催した。

研究成果

• [文献書誌] T.Azuma et al: "Atomic Spectroscopy and Collisions using Slow Antiprotons, Progress Report"CERN/SPSC. M642. 1-38 (2000)
• [文献書誌] R.S.Hayano: "Laser spectroscopy of protonium"Nucl.Phys.A. 655. 318-323 (1999)
• [文献書誌] R.S.Hayano: "Japan Hadron Facility"Nucl.Phys.A. 655. 369-370 (1999)
• [文献書誌] E.Widmann: "Antiprotonic atom formation and spectroscopy-ASACUSA experiment at CERN-AD"Nucl.Phys.A. 655. 353-362 (1999)
• [文献書誌] H.A.Torii: "Latest news from PS205-High-precision laser spectroscopy of antiprotonic helium atoms"Nucl.Phys.A. 655. 295-300 (1999)
• [文献書誌] E.Widmann: "Measurement of the hyperfine structure of antiprotonic helium"Hyperfine Interactions. 119. 195-200 (1999)
• [文献書誌] H.A.Torii: "High-precision laser spectroscopy of antiprotonic helium atomcules and effects of collisions at high-density conditions"Hyperfine Interactions. 119. 213-219 (1999)
• [文献書誌] B.Ketzer: "Quenching of metastable states of antiprotonic helium by foreign gas admixtures"Hyperfine Interactions. 119. 221-226 (1999)
• [文献書誌] R.A.D Piyadasa: "Convergence of the solution of the continuum discretized coupled channels method"Physical Review C. 60・4. 044611-1,044611-9 (1999)
• [文献書誌] Y.Kino: "High-precision calculation of antiprotonic helium atomcules and antiproton mass"Few Body Systems. Suppl.(印刷中). (2000)
• [文献書誌] E.Hiyama: "Four-body calculation of 4H-lambda and 4He-lambda with sigma N-lambda Nconversion"Few Body Systems. Suppl.(印刷中). (2000)
• [文献書誌] T.Ichioka,H.Higaki,M.Hori,N.Ohshima,K.Kuroki,A.Mohri,K.Komaki,and Y.Yamazaki: "Non-Neutral Plasma Physics III (Multi-ring Trap as a Reservior of Cooled Antiprotons, P.59-64)"American Institute of Physics. 487 (1999)
• [文献書誌] Y.Yamazaki: "Non-Neutral Plasma Physics III (Trapping, Cooling, and Extraction of Antiprotons, and the ASACUSA Project, p48-58)"American Institute of Physics. 487 (1999)