研究概要 |
今年度の研究では、書字と描画の各表記領域がいかなる領域知識によって制約され知識として形成されるのかを検討することを目的とした。そのために、いわゆる正綴法での文字産出がまだ十分可能でない段階の幼児として幼稚園3,4歳児計61名を対象にし、音韻知識と、文字・描画の産出課題、表記知識要素(輪郭線の色および輪郭線と着色との関係、輪郭線の直線性、閉鎖性)に関する弁別課題を実施し、音韻知識と書字行為の関係、事物に関する知識(境界、表面、固有色)が描画知識をどのように制約するか、また線分の知覚的特徴が表記知識の成立に与える影響を検討した。その結果、次の3点が明らかになった。第1に事物名の書字水準を7水準に分類し音韻意識水準との関連を見た結果、音韻意識水準が低い段階においても幼児は擬似文字を書くがそこに書かれている文字は音との1対1対応関係を写像していないこと、つまり音韻意識が書字との写像関係を制約していることを示した。また第2に、文字と絵を構成する要素として、線分の知覚的形態自体、すなわち直線-曲線、閉鎖-開放の次元は知識として影響しておらず、正統な文字、図形との類似、みたての可能性によって線分を文字かいなかという形で判断していることが明らかになった。第3に、描画において事物の境界線、事物の色が絵に写像されるという表記知識を幼児は3歳児時点でもっていることが明らかになった。
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