一昨年度は北海道出土人骨資料(縄文時代・続縄文時代)を中心に、昨年度は東北・関東出土の弥生人骨および縄文人骨の分析中心に研究を遂行してた結果、縄文時代集団および続縄文時代集団が、 C_3植物食物群と海産物食物群の間で直線的に分布するのに対し、弥生時代集団では炭素同位体比、窒素同位体比ともに個体間の変動が大きい傾向が示された。タンパク質資源としては、海産物とC_3植物が重要であることが示されたが、関東の大浦山および安房神社遺跡の2集団では、通常のC_3植物よりも窒素の値が高い、陸産の食物群が利用されていた可能性が示唆された。候補としては水稲あるいは淡水魚類が考えられるが、水稲のタンパク質を単離し分析することは技術上、容易ではない。 そこで、海洋生物と陸上生物の間に存在する放射性炭素年代の相違を利用する新たな方法について検討を開始した。放射性炭素同位体(^<14>C)の存在は地球上では必ずしも一様ではなく、一般的に海洋の炭素に由来する物質は同時に存在した大気二酸化炭素よりも、見かけ上の年代値でおよそ400年古い値を示すことが知られている。これを、放射性炭素年代における海洋リザーバー効果と呼ぶ。日本列島が位置する北太平洋においては、海洋深層から2000yBPという古い海水が湧昇しており、平均海水より古い年代値が示される可能性が指摘されている。この大きな相違が遺跡から出土した動物骨において一応に見られれば、海生哺乳類・陸生哺乳類・人類集団の3種の比較から、先史人類集団の海産物利用がより定量的に示唆される可能性がある。現在までに北海道の遺跡で確認したところ、エゾシカとオットセイの見かけ上の放射性炭素年代は、数百年の補正値がかなり一様に存在することが確認された。今後、人骨試料の年代測定値および安定同位体比と比較することで、海産物の寄与率を定量的に復元する計画である。
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