研究概要 |
琉球列島に焦点を当て、人間による環境改変を遺跡から出土する貝類を通して検証することを考えた。その材料として、陸産のオキナワヤマタニシとマングローブ林の大型ウミニナ類を取り上げた。オキナワヤマタニシでは,現在の人間の影響の少ない山原の森林に生息する群は、大型で、殻口は薄い。一方人間による改変を強く受けた石灰岩地の林や海岸部の林に生息する群は、小型で、殻口は厚い。同種でありながら、本種はこのような変異を示す。遺跡から出土した本種のサイズは、縄文時代相当期から中世相当期まで、遺跡立地に現生している群のサイズより、明らかに大型であった。つまり,本種のサイズから本格的な農耕の始まる13-14世紀頃まで沖縄諸島における遺跡周辺は、現在の原生的な自然林と類似した森林が成立しており、その後、人間により森林が改変されたことが示された。同時に、オキナワヤマタニシの出土等に基づいて沖縄諸島における縄文時代晩期相当期に焼畑農業が存在したのではないか、という指摘に関しては否定的であった。 琉球列島から確認される大形ウミニナ類の時代ごとの遺跡からの出土傾向をまとめた.その結果、マドモチウミニナの分布域では変化がなかったが、センニンガイでは13世紀頃に沖縄諸島から、17世紀頃に八重山諸島から、同時にキバウミニナは沖縄諸島において17世紀以降に絶滅したことが明らかとなった。この2種の絶滅は、マングローブ林の人間による改変に起因すると考えられた。2種の絶滅の時間的差は、センニンガイかマングローブ林の最奥部(陸との境界域)に生息するので、マングローブ林の陸側からの開発が最初に生じ、その後にマングローブの林縁に生息するキバウミニナに改変の影響が及んだものと考えられる。いずれも、農業の開始による耕地拡大や土壌流出が至近要因と言えよう。
|