本年度の課題として以下の点を行った。(1)プラーナ文献が伝える年中儀礼の資料の収集は、落ち穂拾い的に、散在する資料の収集にあたった。(2)神像安置儀礼の伝承に関して、その儀礼を記述するグリヒヤスートラ補遺文献およびプラーナ文献により分析を行った。(3)儀礼を執行する司祭は執行する前にある種の潔斎を行う。この潔斎はディークシャーと呼ばれるが、古代インドの儀礼においては司祭でなく、儀礼依頼者のみが行うものだった。この潔斎の実行者の変化は初期ヒンドゥー儀礼の形成と平行してみられることを文献により実証し、学会発表を行った。(4)聖地巡礼はヒンドゥー儀礼の重要な要素である。その、起源に関して、しばしば、ヴェーダ祭式のひとつサーラスヴァタ・サットラが言及される。この祭式は、巡礼を扱うものでなく、サラスヴァティー川にそって行われる牧畜の儀礼化であることを考察した。(5)H.M.エリオット編の『インドの歴史』に散見するヒンドゥー儀礼への言及の収集作業を継続した。(6)1820年ラクノウで出版されたミルザー・ムハンマド・ハッサン・カティールのペルシャ語で書かれた『ハフトゥ・タマーシャー』のテキストに基づいて、19世紀初頭のイスラーム教徒によるヒンドゥー文化理解の分析を継続した。(7)イスラーム教徒、特に、シーア派の人々が行うムハッラムの際に、北ビハールの低カースト・イスラーム教徒が歌うマルシアの分析を継続した。ムハッラムには低カースト・ヒンドゥーも参加する。低カースト・ヒンドゥーの歌うマルシアを録音収集し、低カースト・ヒンドゥーと低カースト・ムスリムの儀礼を通した交流を分析した。
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