本研究の主要目的は、「南アジア地域協力機構」(SAARC)を、これに先行する「東南アジア諸国連合」(ASEAN)と比較することで、その特徴を確認することであり、わけても後者の注目すべき躍進と対照的な前者の停滞が何に由来するのかを検証することにあった。 このような問題意識に基づいて、まず、ASEANを(1)構成諸国の国力比較、(2)ASEAN域内の不協和音の実態、および(3)域内連帯維持の行動原理と実際を概観した。次いで、これをSAARCの実態と比較し、その異同を検討してみたところ、およそ以下のような暫定的結論を得た。 (1)ASEANにおける国力格差は、物理的指標と経済的指標の間にネジレがある点で、両指標において傑出したインドが地域覇権国家体質を帯びざるをえない現実と大きく異なる。 (2)ただし、ASEAN域内にも、(1)マレー系諸国と華人系国家との反目、(2)マレーシアを中心とする一連の領土紛争、(3)歴史に根ざす相互不信など、少なからぬ不協和音が存在しており、その地域的連帯は当然視されてはならない。 (3)この意味で、SAARC諸国は、ASEAN諸国が過去三十余年をかけて培ってきた一連の行動原理(いわば「ASEANウェイ」)から学ぶものが多い。 (4)とりわけ地域大国インドは、ASEANにおけるインドネシアの自己主張と自制のバランスのとれた行動から教訓を学ぶ必要があろう。 ちなみに、これらの知見は、1999年8月にはインド、ネパールでの専門家との意見交換、および、99年10月の日本における研究集会などで発表する機会があった。
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