兵庫県南部地震以降、鉄骨造建物に履歴ダンパーを組み込むことによって、建物の損傷(最大変形)を積極的に制御しようという試みが増えている。しかしこの種の構造物が長周期パルスなどに代表される直下型地震を受けるときの地震応答特性は、従来考えられてきた地震応答特性とは相当異なる可能性が高いことも指摘されるに至っている。本研究では、直下型地震を受ける履歴ダンパー付き多層鉄骨造建物の最大層間変形特性と、ダンパー降伏耐力、主体骨組の剛性、ダンパー降伏耐力層方向分布らとの関係を、主として数値解析から検討するとともに、特に最大変形制御という観点から、直下型地震に対する履歴ダンパー付き鉄骨造建物の耐震設計に供しうる情報を提供することを目的とした。本研究では、従来から多用されてきた地震動群に加えて、兵庫県南部地震および米国ノースリッジ地震において、断層近傍で記録された地震動群(計29)を解析に用いた。本研究の主たる知見は以下の通りである。(1)幾つかの直下型地震動は、骨組を崩壊に導くほどの大きな層間変形を産み出す、(2)直下型地震と分類されても、それぞれの地震動がもつ卓越周期は大きく異なり、それによって同じ骨組でも、それが被る最大変形は大きく違う、(3)一般に最大変形が小さいほど、つまり地震動が小さいほど、履歴ダンパーの効果(最大層間変形の低減)は高く、逆に地震動が大きなものほどその効果は希薄になる、(4)履歴ダンパー効果は地震動毎に相当異なり、従来から多用されてきた地震動群に対する履歴ダンパー効果と、直下型地震動群に対する履歴ダンパー効果には顕著な差が見られない。これらの所見から、履歴ダンパーによる最大変形低減効果は、直下型地震に対しても、従来から考えられてきた程度の効果が得られるとの結論を得た。
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