タンパク質を紫外光(200-250nm)で励起すると、おもに芳香族アミノ酸側鎖の振動スペクトルが選択的に浮き彫りになる。同時に蛍光が可視領域に現れることがあり、通常の1次元検出器は紫外から可視域に渡って感度を持つので、可視の蛍光がラマンスペクトルに妨害を与えることがある。そこで、200-300nmのみに感度を持つ光電面を採用した画像増幅器にCCD検出器を取り付けた新しい紫外専用1次元検出器を製作し、これとシングル分光器を組み合わせて紫外共鳴ラマン分光光度計を組み立てた。励起波長は244nmとし、レーリー光による迷光を軽減するため溶液フィルターを用いた。試運転としてこの装置をローダミン6Gに適用したところ、充分質の高い紫外共鳴ラマンスペクトルが得られ、可視の強い蛍光の妨害を受けないことが確かめられた。次にチトクロム酸化酵素に応用したところ、良好な紫外共鳴ラマンスペクトルが得られた。おもにトリプトファンやチロシン残基の振動モードが観測された。そのほかにリン脂質のC=C二重結合に由来するラマン線が観測され、酸化型と還元型で強度が異なることから、酸化還元に伴うリン脂質結合部位の構造変化が示された。チトクロム酸化酵素は溶液中で二量体(分子量420kD)またはそれ以上で存在していると考えられており、このような大きな複合体の紫外共鳴ラマンスペクトルが初めて観測されたので、ATP合成酵素の測定も可能になった。
|