単結晶電極は、ナノスケールで構造のはっきりした電極材料の一つであるが、これまで研究されたものは主に金属や無機半導体の単結晶電極であり、導電性の有機単結晶電極ではなかった。本研究では、メタロイドポルフィリンの電解反応により導電性のラジカル単結晶が得られることを利用し、この単結晶の基本的物性を解明するとともに、新しい電極材料の開発と機能界面の電気化学的構築を行い、さまざまな電気化学反応への応用を試みた。昨年度までに、ジクロロP(V)テトラフェニルポルフィリンモノカチオンが、ポルフィリン環の1電子還元により、安定な中性のπラジカル単結晶を生じることを明らかにした。本年度は、これらの単結晶の電気化学的応答が、単結晶の育成条件によって著しく異なることを明らかにした。金作用極上に異なる電解時間で結晶化させた電極の、0.1MNa_2SO_4/H_2O中での酸化還元応答は、電解時間に依存してシフトする。この現象は、電極上にπラジカル単結晶の微結晶核が生じている過程で見られ、電極全体を結晶が覆ってしまった後には見られない。このことは、電解還元過程初期に電極上に生じるπラジカルの微結晶の性質が、バルクの単結晶の性質と異なることを示すものである。また、本年度は、電解結晶化が可能な6種類のcenter-to-edge型オリゴマーについて、酸化還元特性を調べた。その結果、異なる軸置換基のオリゴマーで適当な電位で電解還元を行うことにより、中央のポルフィリンのみを還元したπラジカルや、端のポルフィリンを還元したπラジカルを作り分けられることを明らかにした。これらは、有機分子の単結晶電極の新機能を探索するうえで興味深い知見である。
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