本研究の目的は、電気化学セルと文字どおり原子レベルでの実空間分解能を持つ走査プローブ顕微鏡を組み合わせた電気化学STM/AFMにより、原子レベルで構造および表面状態を規制した界面を形成することである。対象として究極の分子情報材料であるDNA分子を選定した。DNA分子の電気伝導現象の解明は、分子生物学、遺伝子工学上極めて重要なテーマである。さらに半導体分野で使用されているリソグラフィ電極パターニング技術を組み合わせることにより構造規制界面上へ、DNA分子を任意の配向で配列、固定し、特定の分子を認識できる高感度化学センサ、高密度メモリ実現のための基礎研究を行った。 アデニンとチミンのみから構成されるDNA分子と、グアニンとシトシンのみから構成されるDNA分子を用いた。DNA溶液が1x10^<-8>M以下の薄い濃度では、約1000-3000塩基対の長さを持つDNA1分子が孤立して、基板上に固定された。一方1x10^<-8>M以上の濃度になると、特徴的な2次元のDNAネットワーク構造が形成された。ネットワークの網一本はDNA1分子から構成されており、極めて2次元性の高い構造を形成することが可能であることが分かった。上記の最適条件下でDNA分子の電気特性評価を行ったところ、極めて興味深い結果が得られた。(poly A+poly T)、(poly A-T)、(poly G+poly C)、(poly G-C)の4種の中で、グアニンとシトシンから構成されるDNA2重鎖分子においてp型の電気伝導が、アデニンとチミンから構成される分子においてはn型の電気伝導が得られた。この全く対照的な差異は4種類の塩基の酸化還元電位に対応していることは、大変興味深い。
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