フラーレンの電気化学的挙動は、基礎のみならず様々な応用の観点からも興味深い。従来、フィルム系では極めて複雑かつ不安定とされてきたフラーレンの電子移動反応が、2電子もしくは3電子還元まで可逆あるいは準可逆反応として観測できるという極めて興味深いデータを得た。この成果を基に、本研究ではフラーレン・カチオン性脂質二分子膜コンポジットフィルム修飾電極系での電子機能を精査すること、並びにフラーレン脂質を素材する修飾電極の電子機能を解明することを目的として研究を行い、以下の成果を得た。 まず、フラーレンC60/人工脂質修飾電極系の電気化学および分光電気化学を行った。その場電気化学近赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、-400mV電位固定において、1076nmに吸収極大を示すフラーレンモノアニオンラジカルのスペクトルが得られた。また、フラーレン脂質を素材とする修飾電極を作成し、電解質として鎖長の異なるテトラアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルフォスフォニウム塩の存在下に電子移動反応を水中にて行なった。微分パルスボルタモグラムの熱力学解析により、フラーレン脂質のラジカルアニオンおよびジアニオンに結合する電解質カチオンの数(それぞれp並びにq)とのラジカルアニオンおよびジアニオンと電解質カチオンとの結合定数(K)を求めた。電解質の鎖長がわずかに長くなると、結合定数が飛躍的に大きくなり、二分子膜を形成するフラーレン脂質アニオンが電解質アニオンと強いクーロン相互作用が存在することが示された。
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