研究概要 |
結晶中の分子は規則正しく配列し,分子は結晶格子の支配下におかれ強く運動制限されており固定された配座を保持する。したがって,分子配列や分子構造が反応性に著しく影響し,均一系とは異なる反の挙動を示す。本研究では,結晶の特性を利用した次の2つのテ-マについて研究した。第1は,固相光反応に活性な分子を設計士,分子構造と結晶構造,結晶空間郡との関連性を研究し,結晶中でC-C,C-N,C-O,C-S結合形成時の分子や結晶構造の動的現象を解明した。第2として,アキラルな分子が形成する不斉結晶場を不斉源とする新しい絶対不斉合成を開拓した。 これまでの研究により,種々のアキラルなS-アリ-ルο-ベンゾイル安息香酸チオエステルとO-アリ-ルο-ベンゾイル安息香酸エステルエステルが高い確率で不斉結晶を形成することを見いだし報告している。 本研究ではアミド誘導体でも絶対不斉合成が可能であることを明らかにした。11種類の結晶性の2-ベンゾイルベンズアミドを合成し,自然結晶出により得られた結晶をCDスペクトルやX線結晶構造解析を用いて評価し,8種の基質が不斉結晶を形成することを見いだした。一般的な不斉結晶の形成割合は20%以下であるにもかかわらず,このアミドは非常に高い確立で不斉結晶を形成した。窒素原子上の置換基がフェニル基の場合には,固相光反応により,効率よく光学活性なフタリドを生成することを見いだした。 反応機構はチオエステル誘導体とは異なり,homolytic開裂によるradical pair中間体を経由してフタリドを生成することがラベル実験により確認できた。数種の基質の反応は結晶構造が崩れないcrystal-to-crystal反応を進行するため94%以上の高い不斉収率の生成物を単離できた。さらに窒素原子上にベンジル基が存在する基質ではベンゾイルカルボニルのδ水素引き抜きにより生成したと考えられる脱アミノ化した形のフタリドが光学活性体として得られた。
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