生体系に匹敵する優れた選択性を有する分子認識系や不斉錯体触媒系、さらに多重らせん構造系など高次集積分子系を構成する超分子素子の開発は、新機能分子の創生に不可欠であるとともに、生体機能への化学的なアプローチとしても大きな意義を持ち、分子科学・物質科学・材料工学などの分野で基礎・応用両面にわたり重要な研究課題である。筆者らは、加水分解酵素リパーゼを用いるとラセミピリジンアルコール誘導体を効率良く光学分割できること、さらにさまざまな光学活性なピリジン誘導体へと変換できることを先に見い出した。またこれら不斉ピリジン誘導体を基盤として、銀イオンに対して実用レベルでの優れた選択性を示す非環状ポダンドの化学合成等に成功を収めてきた。本年度特定領域研究では、光学活性ピリジン類のビルディングブロックとしての特性を活用して、対HIV活性を示すPNU-142721の不斉合成や、新しい錯体触媒の構築に有効なトリボート型不斉配位子の合成へと展開した。 PNU-142721の不斉合成 : リパーゼ(Can di da ant arctica lipase)を用いる光学分割は種々のピリジルエタノール誘導体に対して適用可能であり、これをMorrisらによって合成対HIV治療薬として報告されているPNU-142721の不斉合成へと適用した。その結果総収率は20%で、優れた不斉選択性をもつ合成法を確立した。 トリポード型 不斉配位子の 合成 : 光学活性ピリジルエタノールから誘導される光学活性メシル体とエチルアミン体とのカップリング反応によって、メチル置換基をもつトリポード型不斉配位子の光学異性体を系統的に合成することを明らかとし、不斉酸化反応などのための新たな金属錯体触媒の構築が可能となった。
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