キラル化合物が、自己を合成する触媒として作用し、他のキラル触媒などの助けを借りることなく、自己複製することができれば、きわめて有用な不斉合成法となり得る。アルデヒドのジアルキル亜鉛による触媒的不斉アルキル化反応が近年研究されている。多くの場合キラルなアミノアルコールが不斉触媒として用いられている。もし、窒素原子を含むアルデヒドを基質として用いれば、生成物も不斉触媒として作用し、理想的な場合は不斉触媒と同一構造かつ同一絶対配置をもつ不斉な含窒素アルコールが生成することが期待される。以上の着想に基づき、まず含窒素アルデヒドとしてピラゾール-4-カルバルデヒドを取り上げ、不斉触媒を用いてジアルキル亜鉛による不斉アルキル化反応を検討した。その結果、対応する4-ピラゾリルアルカノールが高い鏡像体過剰率で生成することを明らかにした。一方、ピリミジルアルカノールが優れた不斉自己触媒となり、ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛との反応中にきわめて高エナンチオ選択的に不斉白己複製することを見出レた。特に、2-アルキニルピリミジルアルカノールは、不斉自己触媒としてほぼ定量的かつ不斉収率が99.5%e.e.以上で白己増殖することを明らかにした。しかも、低い鏡像体過剰率の不斉自己触媒を用いたところ、高い鏡像体過剰率のピリミジルアルカノールが生成することを見出した。以上、キラル化合物のきわめて高選択的な不斉自己複製現象を見出した。
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