1.本課題平成11年度においては、形式的なビスマス=窒素二重結合を有する高原子価有機ビスマス化合物、ビスマスイミド、およびその軽元素類縁体の化学を中心に検討を進めてきた。 2.オルト位にメチル基もしくはメトキシ基を有するアリール基(ο-トリル基、ο-アニシル基)を用いてビスマス=窒素二重結合を速度論的に安定化することにより、様々なN-アシルおよびN-スルホニルトリアリールビスマスイミドを合成、単離した。また、同様の手法を用いて合成したN-スルホニルトリアリールアンチモンイミドが単量体として存在することを、X線結晶構造解析により初めて明らかにした。一連の15族元素由来のイミドの構造解析および理論計算の検討により、中心元素の周期が下がるに連れ、イミド結合の単結合性が増加し、ビスマス-窒素結合は極めて分極した単結合とみなせることが明かとなった。 3.合成したN-アシルビスマスイミドの基本的な反応性を調べた結果、様々な基質との反応においてトリアリールビスムトニオ基が良好な脱離基として作用することを見いだした。これは15族元素の中でもビスマスに特徴的な振る舞いである。さらに、電子欠乏型アルキンであるアセチレンジカルボン酸ジエステルとの反応では、イミド窒素のマイケル付加、ビスムトニオ基の転位を経由してビスマスイリドが生成することを見いだした。本反応で得られたイリドは、高度に官能基化されたアルキリデン部位が負電荷を効率良く非局在化できるため、熱的に極めて安定化であり、本反応は安定型ビスマスイリドの新しい合成法と見なすことができる。
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