研究概要 |
ジチオレート金属錯体における硫黄-金属インターエレメント結合の特性を活かし、錯体の新しい物性・機能の発現を目指した。多くの硫黄原子を含む拡張π電子系配位子C_8H_4S_8^<2->(etdt)を有する有機金属錯体を合成し、その電気化学的特性とともに錯体固体での多くの硫黄原子を介した分子間相互作用による導電性に注目した。 まず、etdt配位子を有するチタン(IV)錯体Ti(η^5-C_5H_5)_2(etdt)およびTi(η^5-C_5Me_5)_2(etdt)を合成し、後者については、X線結晶解析により構造を決定した。これらの錯体の酸化電位は、それぞれ+0.19と+0.06V(vs.Ag/Ag^+)であり、ヨウ素あるいは[Fe(η^5-C_5H_5)_2][PF_6]と反応させて、1電子酸化体である[Ti(η^5-C_5H_5)_2(etdt)](I_3)、[Ti(η^5-C_5H_5)_2(etdt)][PF_6]、[Ti(η^5-C_5Me_5)_<2->(etdt)](I_3)および[Ti(η^5-C_5Me_5)_2(etdt)][PF_6]を得た。これらの錯体の電導度(粉末加圧成型試料、室温)は、8.9x10^<-4>〜2.9x10^<-3>S cm^<-1>である。 次に、[NMe_4][M(η^5-C_5H_5)(etdt)_2]ならびに[NMe_4][M(η^5-C_5Me_5)(etdt)_2](M=Ti(IV),Zr(IV))錯体を合成した。これらの錯体の酸化電位は、-0.48〜-0.35V(vs.Ag/Ag^+)であり、これらをヨウ素あるいはTCNQで酸化すると、0.3分子のI_3^-あるいはTCNQ^-ラジカルアニオンを含んだ酸化錯体が得られ、とくにTi(η^5-C_5H_5)(etdt)_2酸化錯体においては0.055〜0.16S cm^<-1>の高い電導度を示した。一方、Zr-酸化錯体では、電導度はそれほど高くない。非平面構造の錯体であるが、酸化錯体固体では、etdt配位子中の多くの硫黄原子の接近によって錯体間相互作用により効果的な電導経路が形成されている。
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