単分子で高い電導性を示す分子ワイヤーは、分子エレクトロニクス素子の重要な構成要素である。一般的に分子はトンネリングにより電気を通すと考えられており、トンネリング抵抗はエネルギーギャップが小さいほど低い。半経験的分子軌道計算を行った結果、アンチモンやビスマスなどの重たい第15族元素のポルフィリンやN-混乱ポルフィリンは、かなり小さなエネルギーギャップを持つことがわかった。 中でもビスマスは低いエネルギーギャップを持つ可能性があるが、これまでに5価のビスマスポルフィリンは知られていなかった。そこで3価のビスマスポルフィリンの電気化学酸化を試みた。第1酸化電位で定電位酸化を行い、得られた化合物の吸収、NMR、エレクトロンスプレーマススペクトルなどの結果からは、5価のビスマスポルフィリンが得られたと思われたが、安定性に欠け確認できなかった。更に安定なビスマスポルフィリンを得るために各種置換基を持つポルフィリンや大きな内孔を持つヘキサフィリンを合成しビスマスを導入後、電気化学酸化を行ったが安定な化合物を得るには至らなかった。 N-混乱ポルフィリンに第15族元素が入った場合、もしこれが3価のアニオンとして働くと中心元素は中性となり、2価のアニオンとして働くとカチオンになる。臭化アンチモンとの反応で得られた生成物のX線単結晶解析を行ったところ中性の5価化合物であることが確認できた。この化合物は、対応するアンチモンポルフィリンよりも長波長に吸収を持っている。電気化学測定において、アンチモンN-混乱ポルフィリンはアンチモンポルフィリンよりも第1酸化電位と第1還元電位の差が小さかった。これらの実験結果から、アンチモンN-混乱ポルフィリンは、対応するアンチモンポルフィリンエネルギーギャップが低いことが明らかとなった。また、軸配位子交換も容易であった。この性質を利用し長い分子ワイヤーを合成可能である。
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