研究概要 |
スズラジカルのセレンに対する強い親和性に着目し、本研究では1,2,3-セレナジアゾールにスズラジカルを作用させれば、1,2,3-セレナジアゾールからビニルラジカルが温和な条件下、効率良く発生できるのではないかと考え検討した。その結果、1,2,3-セレナジアゾールの分解二量化反応が触媒量のスズラジカルを共存させることで著しく促進され、1,4-ジセレニン誘導体が効率良く得られることが明らかとなった。この反応は、スズラジカルが1,2,3-セレナジアゾールのセレン上を攻撃し、セレン-スズ結合の開裂、窒素分子の脱離を経て、まずビニルラジカルが生成し、生成したビニルラジカルがもう一分子の1,2,3-セレナジアゾールと反応し、1,4-ジセレニン誘導体を生成したと考えられることで反応は上手く説明できる。このように系中でのビニルラジカル種の生成が示唆されることから、本方法により発生させたビニルラジカルの有機合成化学への利用を次に検討した。その結果、触媒量のスズラジカル共存下、1,2,3-セレナジアゾールとオレフィンの反応を行ったところ、ジヒドロセレノフェンが収率良く得られ、本反応がジヒドロセレノフェンの効率良い合成法としても利用できることを見い出した。 本研究を通して、触媒量のスズラジカルを共存させることで1,2,3-セレナジアゾールとオレフィンの反応がジヒドロセレノフェンの簡便な合成法として利用できることを明らかにしたのみならず、従来ほとんど報告例のないスズラジカルが触媒的に働くという極めて興味深い反応を見い出すことが出来た。
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