立命館大学に設置されている超伝導小型放射光源においてX線回折・散乱法により有機化合物単結晶の分子配向相転移の研究を行っているが、その研究の過程で放射光の異常散乱現象を利用する新しい結晶構造研究法、Wavelength Modulated Diffraction法、を開発した。これは結晶に入射するX線の波長を特定の原子の吸収端近傍で2結晶モノクロメータの機能を活用して時間的に変動させ、この波長変調を受けたX線による結晶からのブラッグ反射を記録し、郷土のプロフイルに現れる勾配から結晶構造因子の位相を決定するという方法である。 この方法の適用性を確かめるために、有機化合物であるフエロセン誘導体の単結晶についてプリセッションカメラを用い、イメージングプレートを検出器とし、X線の波長をこの物質に含まれるFe原子の吸収端、0.174nm、の長波長側で変動させながらWavelength Modulated Diffraction図形を記録した。多数のブラッグ反射について強度勾配を測定し、それから位相を導出した。この結果と、通常のX線結晶構造解析法による原子配列模型から計算した位相とを比較し、両者の間に良い一致が得られることを確認した。 Wavelength Modulated Diffraction法は単に位相決定だけではなく、相転移に伴って現われるブラッグ反射がどの原子に起因しているかを調べることにも用いられることを示唆した。
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