過渡的磁性半導体のスピン物性の解明と応用を目指して、InGaNのキャリアのスピン分極を調べるとともに、半導体量子ドットの電子スピンを用いた量子演算の検討を行った。InGaNは、近年の青色レーザなどで注目されるワイドギャップ半導体であるが、キャリアのスピン分極が生成されないことが明らかになった。これは、InGaN固有のバンド構造や結晶構造に起因していると考えられる、InGaNではエピ上でIn組成のゆらぎがあり、この組成ゆらぎのために重い正孔と軽い正孔の準位がエネルギー的に混じっている可能性が高い。半導体量子ドットの電子スピンを用いた量子演算の検討では、3重結合量子ドットにおける2電子状態を用いたゲートを提案した。系を貫く静磁場と量子ドットのサイズに依存した回転磁場、およびフォトン支援トンネリングを用いて量子コンピューティングに必要な1ビットの回転と制御NOT演算を実現できる。スピンの回転とトンネル現象のエネルギー分解能のみを用いても、少なくとも5つの量子ビットまで拡張できることが分かった。また、量子演算を行う際に重要な量子ドット間のトンネル時間を実測した。トンネル時間のバリア層幅依存性を測定し、トンネル時間がWKB近似にのることを明らかにするとともに、量子井戸間のトンネル時間より一桁遅いことを明らかにした。
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