我々は平成10年度の公募研究においては、強磁場中の量子ドットにおける電子の多体状態を解析し、相関効果のために「電子分子」が出現することを示した。強磁場中のサイクロトロン運動が原子に相当し、大きな量子力学的零点振動を伴う。電子相関の発現の仕方はパウリ原理に支配されるので、電子分子ではスピン自由度が本質的な役割を果たす。特に、スピン自由度のために伝導が阻害される「スピン・ブロッケード」が電子分子で起こり得ることを提唱した。 本年度は、磁場中の二重量子ドットに関するfull paperを出版し、磁場中量子ドットの総説をMaksym等と共著で執筆した。また、ドットを大きくしたときどうなるかを考える出発点として、具体的にバルクで2次元電子固体(Wigner solid)を先ず古典的な場合に分子動力学計算を行い、有限温度では長距離結晶秩序は存在しない、hexatic相も示唆されるがconclusiveではないことを示した。また量子液体相については、ランダウ準位が丁度半分詰まった分数量子ホール系は、複合フェルミオン描像の平均場近似では自由フェルミ液体であることが予測されているが、我々は、有限系の数値的方法から、低エネルギー励起スペクトルの殻構造に自由フェルミ気体との一対一対応があることを見出した。 今後の課題としては、ドットの魔法数と分数量子ホール液体の関連、特にスピン自由度との絡みが興味深い。
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