本研究では、有機性廃棄物の利用と環境保全上重要である森林資源の保全を絡め、微生物を利用して廃棄物からセルロース合成を行うことを試みる。バクテリアセルロースの生合成に関しては、酵素あるいは遺伝子レベルの詳細な研究が酢酸菌を中心にしてすでに行われているが、本研究では蛋白質系あるいはその他の有機物質を基質とした時のセルロース合成の特性を検討した。同時に、有機性廃棄物を基質とする微生物によるセルロース合成の有効性を推定しその評価を行なうために、紙資源リサイクルにおけるマスフローを解析した。その結果、紙の流通経路においては、古紙の利用率は段ボールなどを含む板紙では約85%にも達し現状においても上限に近いのに対し、印刷・情報用紙等を含む紙への利用率は約25%であり、今後は後者の紙への利用を目的とした古紙の質の上級化が有効であると考えられた。微生物によるセルロース合成ではGluconasetobacter xylinusを用いてセルロース合成能を調べた。本菌は窒素系の成分を高濃度に含有する培地であっても、高いセルロース合成を示した。さらに、大豆ペプトン、窒素成分や塩類を豊富に含む肉エキス培地においても、高いセルロース合成能を示すことが明らかとなった。従来、工業製品化を目的としたバクテリアセルロースの合成では、セルロース生合成の直接の素材である糖質系物質を含む培地を用いて合成条件の最適化が検討されてきた。しかし、蛋白質系の素材を原材料とし、しかも高濃度に含有する条件下であっても、本菌によるセルロース合成は促進された。このようにして作られたバクテリアセルロースは、劣化の進んだ古紙に混合することにより、その質の向上に寄与することが期待される。
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