研究概要 |
大規模・高集約型畜産業は、高収穫量が得られる反面、多量の家畜ふん尿のために環境への負荷を増大する。これを解決するためには、家畜ふん尿を厩肥として農地還元するリサイクルシステムが試みられている。しかしリサイクルシステムにおける窒素の収支に関する知見は多いが、その他の元素、リン、カリに始まりカルシウム、マグネシウム、さらには微量要素等の各種元素の過不足に関してはデータが少ないのが現状である。また、エネルギー消費量に関しては殆ど評価されていない。そこで、本研究では各種元素の収支およびリサイクルに要するエネルギー量を求め、各種元素およびエネルギーの負荷量を小さくするリサイクルシステムを構築することを目的とした。平成11年度は、各種元素の収支を名古屋大学附属農場を対象に調査・分析した。 有畜複合経営を行っている名古屋大学附属農場を対象に、リン酸、カリウムに加えてカルシウムの循環について調べた。推定には、飼料成分表および化学肥料の成分表、さらには食品標準成分表の値を用いた。飼肥料として流入する量と生産物として出荷されているものの量の差を、農場周辺環境への負荷となっている量と推定した。窒素、リン酸、カリの場合と同様にカルシウムの殆どは、農産物としては流出せず、附属農場を中心とする環境中に放出されていることが推定された。 附属農場における各種元素の流出経路は、土壌環境からと考えられたので、厩肥連用圃場を対象に交換性陽イオンおよび全金属イオン分析を行った。連用圃場には、無肥料区、化学肥料区、化学肥料に厩肥を40t/ha/y施用する慣行区および厩肥のみを400t/ha/y施用する厩肥区の4つの施肥管理条件を用意した。リン酸は、トルオーグ法により抽出した有効態リン酸を比色法で測定した。交換性陽イオンはショーレンベルガー法で、全金属イオンは硝酸-過塩素酸-フッ化水素酸分解法で用意し、原子吸光法で定量した。年間1haあたりのリン施用量は、慣行区と化肥区を比べると約2.5t余分のリンを施用していることが明らかになった。しかし、慣行区ではこれとほぼ同じ量のリンが土壌中に蓄積されたので、余分に施用された殆どのリンは土壌中にとどまったものと考えられる。しかし大量の厩肥を施用する厩肥区では、系外へ流出したリンがあるものと推定された。一方、カリウムは厩肥施用に伴い、環境負荷量が増加した。各種金属元素として、Na,K,Ca,Mg,Zn,Cu,Mn,Feを測定した。厩肥区で有機物含量が増加したので、Feを基準とし濃度データを正規化した。CaやMgが、化学肥料区や無肥料区では大きく減少していることが示された。厩肥を施用した区では、減少量が小さいかまたは増加した。Zn,Cu,Mnでは、減少する割合が小さく、厩肥を施用した区では増加が見られた。また、堆厩肥施用の際にK/(Ca+Mg)比が高くなりすぎて問題となる場合が知られているが、この値は殆ど変化しなかった。これらの結果は、慣行施用での厩肥施用は硝酸溶脱量を高め環境負荷となっている(昨年までの結果)が、その他の各種元素の循環では環境負荷よりも土壌への微量元素補給となっているものと考えられた。 今後、更にCoやMoを測定するとともに、次年度は厩肥リサイクルに関わるエネルギー評価を行う予定である。
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