東西方向に全く異なる気候状態をもつ熱帯太平洋域において、中部・東部太平洋に注目しつつ、惑星規模における対流圏オゾンの動態を明らかにすることがこの研究の目標である。 対流圏界面を特徴づける気象要素の値を熱帯東太平洋ガラパゴス諸島のサンクリストバルと西太平洋のシンガポールとで比較した。良く知られた季節変動の特徴は両地点で確認できるが、海面水温(SST)がより低い前者において高温の後者より圏界面が高圧・低高度・高温という特徴は認められない。各要素の平年偏差は同位相の関係を保って推移し、エルニーニョとの対応は明確でない。これらの結果は、赤道に沿ったSSTの東西コントラスト及びその時間変動が圏界面の気象量に対する主たる変動要因ではないことを示唆している。 サンクリストバルと熱帯中部太平洋に位置するクリスマス島におけるオゾンと水蒸気のゾンデ観測値の解析を行った。オゾンの高度分布には下方伝播する波動が存在する。その対流圏内における破砕は成層圏から対流圏へのオゾン輸送を担っているが、水蒸気における同様の過程は下部成層圏・上部対流圏の乾燥状態の維持に重要な役割を果たしている可能性がある。乾期にはオゾンと相対湿度に層状構造が卓越し、高度分布に認められる逆位相の関係は海洋と大陸を起源とする大気の相違として理解できる。9月に特徴的なことは、高度1km程の境界層とその上の温度逆転層の存在である。東太平洋域は湧昇に伴う高栄養塩濃度と活発な海洋生物生産性で特徴づけられ、そこで放出されるハロゲン化合物によるオゾン破壊も予想されることから、逆転層内に閉じこめられたオゾンの変動に関する詳細な解析が待たれる。また、対流圏界面を通した水蒸気輸送の成層圏乾燥状態の維持に対する寄与については、異なる季節を含む更なるデータの集積が望まれる。
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