生体は、音、光、匂、味といった外来シグナルを受容し、聴覚、視覚、嗅覚、味覚といった感覚の発生という形でこれらに応答する。口腔は舌上皮の味蕾細胞で甘・酸・塩・苦・旨の基本味を受容する。一方、基本味以外の口腔感覚も味覚の主要な一部を占める。これは、舌の味蕾以外の部位を縦横に走るソマトセンサリーニューロンが食物の物性や温度を、時には"hot"という言葉で表される香辛料の辛味さえも、痛覚・温覚として把える物理感覚である。本年度はその解析の第一歩として、辛味と温度(高温)を受容する分子であることがわかったVR1と、体性感覚神経細胞のマーカーのひとつであるサブスタンスPのPGにおける発現をin situハイブリダイゼーション法によって解析した。その結果、かなりの頻度で、VR1陽性細胞が見られた。また、陽性シグナルを与える細胞の形態を詳細に観察すると、径の小さいC繊維細胞に対応すると考えられる細胞に強い発現が、それよりもやや大きい細胞でやや弱い発現が見られることがわかった。さらに、C繊維に発現することが知られているサブスタンスPの発現頻度・パターンからも以上のことが支持された。また、VR1と各種Trkとの隣接切片を用いた発現パターンの解析から、一部のTrkAおよびTrkC陽性細胞がVR1を発現していることが見出され、これらの神経の終末が舌や口腔内での辛味や高温受容に関わっていることが推測された。また、TrkB陽性細胞とVR1陽性細胞との間に重複は観察されず、味神経(候補群)と辛味・温度刺激応答とは峻別されている可能性が示された。
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