研究概要 |
真核生物の高活性な翻訳系はmRNAの5′端にキャップ構造を必要とする。人為的にin vitro転写産物にキャップを付与することは可能であるが、操作が煩雑になるため、ゲノム解析レベルで要求される多検体処理を著しく困難にする。そこで、天然の植物RNAウイルスのキャップ非依存性翻訳促進配列から出発して、mRNAのリボゾーム複合体へのバイオターゲティングの観点から、その翻訳促進活性を維持したままPCRプライマーの一部にできる程度にまでにその翻訳促進配列を短少化することを目的とした。これまでの検討により、キャップ非依存性翻訳促進配列を持つと言われているタバコエッチウイルス(TEV)で高度に保存されている領域[29 bp,TE(37-65)配列と命名]が小麦胚芽抽出液を用いた翻訳反応系において、cis配列としてキャップ非依存性の翻訳を促進することを見出している。本年度はこのTE(37-65)配列を利用したcDNAの高速多検体発現系の構築をめざし、次の2点を検討した。 1)PCRによる転写・翻訳制御配列の標的遺伝子への付加の効率化 転写のプロモータ・ターミネータ配列とTE(35-65)配列を含むように設計したプライマー2本と、これら転写・翻訳の制御配列の一部とcDNAライブラリーのベクター部へのアニール配列とをそれぞれ持つプライマー2本の、計4本のプライマーを濃度比20:1で同時に用いてPCRを行い、cDNAライブラリー→in vitro発現用cDNAライブラリーへの迅速変換が可能であることを実証できた。 2)転写と翻訳反応のシームレス連結化 転写・翻訳を同時的に行わせて共役させるよりもむしろ、転写反応終了後、反応液体積の50倍容以上の翻訳反応液をそのまま系に加えるという「シーケンシャルな転写・翻訳反応」を採用するにより、迅速性と生産性を両立できた。 最後にこれらの要素技術を用い、酵母cDNAの高速多検体発現に成功した。
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