研究概要 |
本研究では、分子内スピン電荷混成場においてスピンと電荷とをそれぞれ原子レベルで位置選択的に局在化または非局在化、分離または接近させることによって、スピン場と電荷場との非局在電子系としての性質どのように変化するかを検討し、非局在電子系としての特徴を明らかにする。特に、スピン-正電荷の非局在化という観点からラジカルカチオンの光励起状態の発光について検討した。多くの芳香族化合物の励起一重項状態は発光性であり、それらはベンゼン環の平面性が高く、π電子の非局在化が一因となっている。電子線パルス/パルスレーザー2段階励起蛍光法(電子線パルスラジオリシス-レーザーフラッシュホトリシス法)を用いて、種々の芳香族化合物(M=ベンゼン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェノール、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルベンゼン、アニソール、1,4ジメトキシベンゼン、1,3,5-トリメトキシベンゼン(TMB)など約50種類)のアルゴン飽和ベンゾニトリル(BN)溶液の電子線パルスラジオリシスによりそれぞれラジカルカチオン(M^<・+>)を発生させ、続いてM^<・+>の寿命内にM^<・+>の吸収にあったNd:YAGレーザーの高調波(535または355nm)を照射してM^<・+>の光励起状態を発生させ、その蛍光を観測する2段階励起蛍光法を用いて、M^<・+>の蛍光を測定した。これらの内、TMB^<・+>の蛍光が観測された(量子収率値1.1×10^<-3>)。ベンゼンのメトキシ置換体の内、TMB^<・+>のみが蛍光性を示すことを見出した。3,5-ジメトキシフェノールおよび1,3,5-トリフェノールのラジカルカチオンも蛍光を示し、量子収率は2×10^<-3>であった。結果として、M^<・+>の発光に対してM^<・+>の分子軌道のエネルギーと構造が重要であること、これはスピン-正電荷の非局在にも関係することがわかった。
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