D-アミノ酸酸化酵素(DAO)はさまざまなD-アミノ酸を基質とし、酸化的脱アミノ反応を触媒しケト酸とアンモニアを生成する。これまで、DAOと反応阻害剤との複合体のX線結晶解析を行うことにより、DAOの反応機構の研究を続けてきた。その結果、基質のD-アミノ酸のカルボキシル基はArgとTyrのそれぞれの側鎖と相互作用し、アミノ基がGlyの主鎖のカルボニル基と相互作用することで活性部位に固定され、それに伴い、基質のα-水素は補酵素FAD側に向いていることを明らかにした。この構造にもとづき、基質からFADに直接プロトンと2電子の移動が起こる2つの反応機構を提案した。DAOは種々のD-アミノ酸を基質とするが、L-アミノ酸は基質としない。また、一部のL-アミノ酸は拮抗阻害剤になることが知られている。今回は基質のCαのキラリティによる反応性の違いを調べるために、DAOとL-ロイシン複合体のX線結晶解析を行った。 DAO-L-ロイシン複合体結晶はネイティブのDAO結晶をL-ロイシン溶液にソーキングすることで得た。回折データの収集には筑波の放射光を用いることにより、2.2Å分解能までのデータを収集した。構造の最適化を行った結果、R=20.9%の構造を得た。 DAO-L-ロイシン複合体の活性部位の構造は、基質のカルボニル基の認識部位、さらには基質アミノ酸の側鎖が入るポケットまで、真の基質であるD-アミノ酸の場合の認識機構と同様であった。L体のアミノ酸がDAOに取り込まれた場合にはFADヘプロトン移動するべきα水素がFADと反対側に存在することになり、酸化反応を全く起こさないことが明らかになった。
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