本年度得られた結果を二点に要約される。 (1)(ピリジル)ベンズイミダゾール配位子を構成単位とする種々のルテニウム二核錯体を新たに合成し、そのプロトン共役電子移動について検討した。周辺基のベンズイミダゾール三座配位子のプロトン化および脱プロトン化によりHOMOおよびLUMOの軌道エネルギーが大きく変わり、架橋配位子を通してRu-Ru間相互作用が変化することが見いだした。 (2)プロトン共役電子移動系をもつ錯体を自己組織化法(SAM)により金電極上に固定した新たな表面錯体系の構築を検討した。ジスルファイド基をもつビス(2-ベンズイミダゾリル)ピリジン基を有するルテニウム錯体を合成し、金表面へのSAM膜とした。アルキル基の長さとしては、炭素数8および12個のものを合成した。このSAM表面の接触角測定では酸性側で72度、アルカリ側にすると55度となりより親水性になることがわかる。Ru(II/III)の酸化電位は溶液のpHに依存し、期待通り界面でもプロトン共役電子移動系として働くことがわかった。酸化電位のpH依存性を表したプルベー図からSAMにした場合のpKa値は炭素数8の場合にはpKal=5.8とpKa2=7.8と溶液中で得られた6.3と8.1と大きな変化はないことがわかった。また、炭素数が12になると、SAMのpKl=6.5とpKa2=8.5と小さいながらpKa値の増加が観測された。希釈剤としてオクタンチオールを用いた場合にボルタモグラムの半値幅が小さくなることから分子間相互作用が大きくが予想される。還元脱離の実験より、分子間相互作用の強いドメインがはじめに表面に生成し、時間が経つとドメインの境界で乱れた配列をとることがわかった。フェロセンチオールとの混合系を用いると狭い範囲(2<pH<5)であるが微小なpHセンサーとしてフェロセン基準に溶液のpHをモニターできる。
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