研究概要 |
[Fe^<II>FeND^<III>ND_2O(az-benz)ND_6(py)ND_3]3pyでは、3つの鉄原子のうち2つの鉄原子間でのみ電子移動が起こる、という非常に珍しい挙動が見られた。温度上昇とともに2価の鉄と1つの3価の鉄原子間で電子の非局在化が起こり、しだいに電子移動速度が速くなり、150Kにおいては2.5価と3価の鉄の吸収面積の割合が2:1となった。78Kのスペクトルは、すでに鉄(II,III)原子間での原子価の非局在化が始まっていることを示した。[Fe^<II>FeND^<III>ND_2O(az-benz)ND_6(py)ND_3]3pyの分子構造を解析した。構造解析は293,150,85Kの3点で行った。分子中に1つの鉄(III)と中央の酸素原子をとおる2回軸があり、鉄と配位原子との結合距離から、1つの鉄(III)と鉄(II)が構造的に等価であることを示した。85Kで、1つの鉄(III)と鉄(II)が等価であることは、メスバウアースペクトルから得られる結論と一致しない。メスバウアースペクトルは、それぞれの鉄原子を時間分解能、10^<-7>秒で観測するにに対し、X線回折線では約500nmの構造の平均値を観測してためである。原子価が揺動している2個の鉄原子に配位しているピリジンの平面は、3個の鉄原子が形成する平面に平行であった。残る1個の鉄(III)原子に配位しているピリジンの平面は、3個の鉄原子が形成する平面にほぼ垂直になっていた。この錯体を真空中に長時間保存して溶媒分子(ピリジン)を取り除くと、局在化した原子価状態を示した。 [Fe_2(bpmp)(X(CH_2)_nCOO)_2]BF_4では、Xにcuclohexane誘導体を選び、鉄(II,III)原子の原子化の揺動をめざした。その結果、Xが長鎖のカルボン酸になると鉄(II,III)原子の原子価が揺動することが解った。さらに、この錯体では78Kでも一部すでに非局在化原子価状態が現れること、またcyclohexaneの構造の立体異性が関係するため、均一な原子価の揺動が現れないという特徴があることが解った。
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