本研究では、遷移金属原子を含む系(クラスターおよび1、2、3次元ネットワーク構造)について、密度汎関数法を用いて、電子構造、幾何構造およびそれらに関する物性の研究を行うが、今年度は、ハロゲン架橋金錯体の電子構造を研究した。 基本単位胞(Au_2Cs_2Cl_6)を用いて結晶軌道計算を行った。計算ではモデルコアポテンシャルを用いており、原子価電子として、Auは6s^15d^<10>、Csは5s^25p^66s^1、Clは3s^23p^5を考慮した。Br、Iでは、それぞれ4s^24p^5、5s^25p^5となる。実際の電子配列はAuは5d^9、Csは5s^25p^6、Clは3s^23p^6に近く、Au^<2+>、Cs^+、Cl^-というイオン結合のイメージに近い。バンド構造図より価電子帯に関してはバンドの分散は大きくはないことがわかる。状態密度図から軌道(結晶軌道でもMOと呼ぶ)群は4つのグループに分かれ、第1グループは-21eV付近の2つの軌道で、Csの5s軌道による。第2グループは-15eV付近の6個の軌道で、Clの3s軌道が主成分であるが、低エネルギー側の軌道ではAuの方まで広がり結合に寄与している。第3グループはー7.3eV付近の6個の軌道で、Csの5p軌道による。第1グループ、第3グループのCsの軌道は他の原子の軌道と混成しない。 残りのすべて(27個)の軌道が第4グループで、Auの5d軌道とClの3p軌道から構成されている。低エネルギー側ではpσ-dσ型結合やpπ-dπ型結合が見られるが、高エネルギー側の軌道は、Clの3p軌道の孤立電子対的あるいは、Au-Cl間での反結合性の様相を帯びている。HOMOでは、水平方向も、垂直方向も反結合性的になっている。LUMOはHOMOと似ているが、よりCl原子の密度が大きくなっている。バンドキャップは1.5eVと計算された。
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