Bach1およびBach2は、塩基性領域・ロイシンジッパー(bZip)を介してMafファミリーやFosとヘテロ二量体を形成し、Maf recognition element(MARE)やTPA responsive element(TRE)を介して転写抑制因子として作用する。MafやFosを細胞増殖のアクセルとすれば、Bachはブレーキとして機能することが予想される。そこで本研究では、Bachファミリーが細胞増殖制御において担う役割を明らかにすることを目標とした。そのために、Bachの機能を細胞内シグナル伝達系の中で位置づけることを試みた。さらに、Bachに結合し、その機能を修飾する因子群の同定を試みた。成果は以下の如くである。 (1)Bach2は転写因子であるにも関わらず、通常は細胞質に存在する。この分布は、核移行シグナルに加え、核排出シグナルを併せ持つことにより達成されている。 (2)Bach2の核排出シグナルは既知のロイシンに富む核排出シグナルとは異なる特徴をもつ。また、その機能は酸化ストレス下では特異的に阻害され、その結果Bach2は核に蓄積する。 (3)Bach2は酸化ストレス応答性遺伝子発現の抑制因子として機能する。Bach2過剰発現により、細胞は酸化ストレスに対する感受性が亢進し、細胞死をきたしやすくなる。 (4)Bach2のBTBドメインに結合する新規制御因子としてMAZRを発見した。MAZRはBach2を転写活性化因子に機能変換するとともに、c-mycの非常に強い活性化因子として作用する。
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