研究概要 |
Fanconi貧血(FA)は、小児期に発症する進行性の骨髄不全、白血病を始めとする悪性腫瘍の多発などを特徴とする常染色体性遺伝疾患であり、特に白血病発症の遺伝モデルとして注目を集めている。患者細胞は染色体不安定性やmitomycin CなどのDNA架橋剤に高感受性を示すという特徴を持つ。遺伝的に異なる8群(A〜H群)に分類され、A群,C群,G群の遺伝子(FANCA, FANCC, FANCG)が近年同定され、これらの産物蛋白が結合して核内へ移行することが最近報告されたが、その機能は不明である。私共は最近、FANCA蛋白がリン酸化を受け、このリン酸化とFANCA/FANCCの結合およびその核内への移行がD群以外のすべて(A,B,C,E,F,G,H群)の細胞で阻害されていることを見出した。したがって、FANCA、FANCCのこれらの作用は他のFA蛋白群の制御も受けつつ、FAの病態における中心的経路を形成すると考えられる。そこで、この経路の分子機構を解明するために、FANCAリン酸化の分子機構について解析を行い、以下の知見を得た。(1)FANCAは種々の異なる細胞においてリン酸化を受ける。(2)そのリン酸化酵素(FANCA-PK)は、FANCA蛋白と複合体を形成し、`主に細胞質に存在するセリンキナーゼである。またwortmanninに感受性があることから、PIキナ一ゼ・ファミリーに属するかもしれない。(4)FANCAリン酸化のみではFA分子経路が機能する上に十分ではない。(5)しかし、FANCAの患者由来の変異体(H1110P,R1117G)を用いた実験結果は、FANCAの機能とリン酸化が密接に相関することを強く示唆する。以上より、FANCAのリン酸化部位を決定し、FNACA-PKを同定することは、FA分子経路を理解する上に重要であると考えられる。
|