成人T細胞白血病(ATL)はHTLV-Iの感染に起因する。HTLV-Iの産生する蛋白のうちTaxがT細胞白血病化に主要な役割を果たしているが、その詳細には不明な点が多い。Taxは、T細胞の増殖情報伝達に関わる因子や遺伝子に作用することが知られている。しかし、現在の知見はT細胞の腫瘍化を系統的に説明できるものではない。我々はTaxが細胞周期転写因子E2Fを活性化することを見い出した。また、TaxによるE2Fの活性化が細胞増殖を誘導するか調べたところ、インターロイキン(IL-2)依存性ヒトT細胞株Kit225細胞の休止期(G0/G1)にTaxをrecombinant adenovirusで導入すると、Taxの発現した細胞ではS期が認められた。ただし、細胞分裂には至らなかった。PHAで活性化したヒト末梢血でも同じ結果が得られた。NF-κB、NF-ATを活性化しないTaxの変異体ではS期の誘導がみられず、TaxによるE2Fの活性化と並行していた。繊維芽細胞にS期を誘導するE2Fの単独導入で、Kit225細胞はS期の誘導は認められず、T細胞と繊維芽細胞でE2Fの活性化機構に違いのあることが示唆された。そこでTaxによる、E2Fの抑制因子であるRbファミリーへの影響を調べたところ、Taxはp130をリン酸化し、その結果p130の量が著しく低下していることが明らかとなった。これはKit225にIL-2で増殖を誘導した時と同じ現象であった。このことはTaxはT細胞のIL-2による増殖経路を刺激して細胞をS期に導いていることを示している。
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