固形腫瘍において、K-ras遺伝子の変異は高頻度に観察されるが、変異K-Rasの発癌における役割については、充分に解明されていない。この研究では、大腸癌細胞株HCT116とその変異K-rasを遺伝子標的法を用いて欠失させたクローンHKe3を利用することにより、変異K-rasにより発現制御される新規の癌関連遺伝子を単離すること、および変異K-Rasのシグナル伝達機構を解明することを目的とした。 1)HCT116とHKe3の間でPCR法を利用したサブトラクションcDNAライブラリーを作製し、HCT116のみに強発現するcDNAフラグメントを単離し、その全長鎖のcDNA配列を決定した結果、(1)新規の遺伝子として、N末にbasic Zip転写因子のbasic domainを持つ1259アミノ酸からなるXCS1遺伝子、トランスポーターと相同性を持つ506アミノ酸からなるTrapXを、(2)既知の遺伝子としてMig6、Wnt-16、Epiregulinを同定した。 2)XCS1遺伝子大腸粘膜における発現は微弱であるが、多数の大腸癌細胞株において強発現が観察された。正常組織においては膵臓で最も強く発現が観察された。XCS1のマウスのgenomic DNAを単離し、そのmappingを行い、遺伝子欠損マウス作製のプロジェクトを開始した。 3)大腸癌細胞において変異K-rasはERKの活性化には関与しないが、TPA刺激によるSEK1-JNKの活性化の経路を特異的に抑制していることを明らかにした。 今後は新規および既知癌関連遺伝子の機能解析とそれぞれの遺伝子型産物のクロストークを中心に解析を進行させる予定である。
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