AML1は、ヒト白血病における染色体転座の最も高頻度の標的遺伝子であり、造血発生制御に関与する転写調節因子をコードする。当該研究では、AML1欠損マウス胚性幹細胞(ES細胞)の造血分化障害を、野性型AML1b(PEBP2αB1)遺伝子のノックイン発現によってレスキューする実験系を構築し、この実験システムを用いてAML1の生物作用メカニズムの解析をすすめている。本年度は、まず、このノックインクローンを用いてキメラマウスを作成し、その造血組織でのクローン解析を行って、この造血レスキューが個体のレべルにおよんでいることを見い出した。ここでは、AML1bの発現によってES細胞がリンパ系への分化能力も再獲得することが明らかにされた。同時にこのことは、この実験システムによって得られる結果がinvivoでのAML1機能を反映していることを示しているものと思われる。次に、野性型AML1bのかわりにC末端の欠失変異体をノックインさせることによってその生物作用を検討した。その結果、C末端のVWRPYモチーフを持たないAML1bΔ466変異体や、このモチーフを含めたC末端の61アミノ残基を欠くAML1bΔ390変異体でもその生物活性は保たれていることが判明した。一方、転写活性化ドメインを欠く変異体であるAML1b△320やAML1bΔ293ではこの造血レスキュー作用は観察されなかった。これらの結果から、AML1による造血発生制御作用はその転写活性化機能と相関していること、そして、転写抑制作用を持つと考えられているC末端側のサブドメインはこの造血制御作用の発現にとって必須ではなく、他の生物作用に関与している可能性があるものと考えられた。
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