われわれは、頭頚部扁平上皮癌細胞株において、Granulocyte Colony-Stimulating Factor(G-CSF、顆粒球刺激因子)が、癌細胞の浸潤能を亢進する作用をもつことを見いだした。その作用機序はG-CSFリセプター(G-CSFR)を持つ癌細胞にリコンビナントG-CSF(rG-CSF)で刺激すると、G-CSFRを介して(G-CSFRのJAK1リン酸化を起こし)IV型コラゲナーゼ活性が亢進するためであることを証明した。以上のことを基盤に本研究では、頭頚部扁平上皮癌細胞株におけるG-CSFRを介したG-CSFの刺激が増殖よりも浸潤に関与し、癌細胞の進展に結びついていることをin vitroの系で最終確認した。 (1) G-CSFR遺伝子の遺伝子導入:G-CSFRのcDNAから発現ベクターを作成した。G-CSFR陰性のT3M-1細胞(頭頚部扁平上皮癌細胞株)にG-CSFR発現ベクターを形質導入し、永続発現可能なクローンの選択に成功した。RT-PCR、ウエスタンブロット、免疫染色でG-CSFRの発現を確認した。同様に発現ベクターのみ形質導入したコントロール遺伝子導入細胞株を作成した。 (2) G-CSFR遺伝子導入細胞株の浸潤能測定をrG-CSF刺激、非刺激下で測定した。その結果、遺伝子導入細胞株の浸潤能はrG-CSF刺激にて上昇した。コントロール遺伝子導入細胞株では不変であった。 (3) G-CSFR遺伝子導入細胞株のIV型コラーゲン活性をゼラチンザイモグラフィーにて判定したところ、rG-CSF刺激にて有意に上昇した。コントロール遺伝子導入細胞株では不変であった。 (4) G-CSFリセプター遺伝子導入細胞株の増殖能を測定したところ、rG-CSF刺激にて変化はなかった。 以上より、頭頚部扁平上皮癌細胞株の癌浸潤にG-CSFRが関与していることが明らかとなった。
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