研究概要 |
今までに多くの重要な「がん抑制遺伝子」が単離されてきた。それらは主に細胞の運命を決定する遺伝子群であった。しかし「細胞の運命を維持する機構」に関しては殆ど研究されていなかったのが現状である。この機構は、唯一、ショウジョウバエの遺伝学で、ポリコーム遺伝子群として知られていた。我々は、世界で始めて哺乳類のポリコーム遺伝子群(その中のmel-18遺伝子)を単離しその解析を、ノックアウト・マウスやトランスジェニック・マウスを用いて行ってきた。 現在までに、mel-18遺伝子が、(1)in vitroで、がん抑制遺伝子としての活性を持つこと、(2)c-myc遺伝子の発現を調節することにより、c-myc/cdc25カスケードを介してCyclin-CDK複合体の活性を制御し、細胞周期を調節していること、(3)BCL-2ファミリーの発現調節を介して細胞死・細胞生存を制御していること、等を明らかにしてきた。 最近、mel-18の+/-マウスを長期観察していたところ、乳癌が多発することが確認された。さらにその内の数例は肺などへの転移も起こしていた。このことは1995年に我々が(Kanno et al EMBO J, 1995)、mel-18は「がん抑制遺伝子活性」があると報告したことを、個体レベルで始めて証明した事になる。現在、点突然変異の有無を含めてその詳細を解析中である。現在その機構解析から、従来の「2-ヒット理論」ではなく「haploinsufficiency」で説明される新しいタイプの癌抑制遺伝子群であることがわかった。「なぜ正常な遺伝子のコピー数が半分になると細胞ががん化するのか?」という基本的な質問が出てきた。正常細胞の巨大な蛋白質複合体の解析から、核内の蛋白質複合体の消失が起きていることが判明した。原因は何であれ、正常な蛋白質複合体の不安定化が長期間継続することが発がんにつながると思われる。
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