遺伝性高チロシン血症(フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ欠損症)では高率に肝細胞癌が発生する。そこで、本疾患における肝癌発生の機序を明らかにする目的で、その遺伝的マウスモデルを作成し、チロシン代謝異常と細胞における変化の関連について観察した。マウスではFAHが欠損すると周産期に死亡するために、チロシン分解系でFAHよりも上位に位置するHPDの欠損を導入し、FAHとHPDの双方を欠損するマウスを作成したところ、この2重欠損マウスは無症状で生存した。そこで、HPD発現組み換えアデノウイルスを用いてチロシン分解系を再開通する、肝では急激なアポトーシスが生じ、肝細胞死が生じるることが判明した。同時に腎近位尿細管上皮細胞においても同様にアポトーシスが生じた。またこのアポトーシスはカスパーゼ阻害剤でほぼ完全に阻止できた。2重欠損マウス由来培養肝細胞を用いてin vivoと同様にチロシン分解系を再開通するとアポトーシスが生じた。次にカスパーゼの前投与によってアポトーシスを免れ生存した肝細胞を長期間観察したところ、細胞の一部は異常な形態を示したが、癌化の確認には至らなかった。これはNTBCを投与してHPDを酵素学的に阻害した状態で生存させたFAH欠損マウスにおいては肝細胞癌の発生することと比較すると対照的であった。一方、アポトーシスにいたらしめた臓器およびマウスにおいて尿中8-oxoguanineレベルを検討したが有意の増加は無かった。今後は、発癌にいたる過程での染色体の異常やDNAの変化を検討する予定である
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