Src型チロシンキナーゼの酵素活性は、増殖因子などの刺激によって活性上昇を起こし、C-terminal Src kinase(Csk)により抑制的に調節される。発癌遺伝子産物V-Srcは、Src型チロシンキナーゼの変異体であり、恒常的キナーゼ活性化を示す。Src型キナーゼとその活性制御機構は多細胞生物特有であり、ヒトなどの哺乳類動物細胞で研究を進めることは制癌に重要である。我々はCsk homologous kinase(Chk)がSrc抑制性チロシンキナーゼCskとファミリーを形成すること、膜結合型Chkを介したLynキナーゼ選択的Src型キナーゼ抑制機構の存在を明らかにした。Chk恒常的過剰発現が血液系細胞の増殖遅延と多核化を誘導すること、LynとChkが染色体や紡錘糸にも会合し、染色体の動態に関与することが示唆された。今回、上皮系癌細胞株HeLaやCOS-1細胞でもLynが核内に存在することを見いだした。ChkをCOS-1細胞に遺伝子導入すると、細胞質と核にも発現した。SH2領域欠失Chk変異体は核に局在し、多形核化・多核化を誘導して増殖を抑制した。Lynキナーゼ領域欠失変異体をCOS-1細胞やHeLa細胞に遺伝子導入すると、核での高い発現が認められ、多核化・増殖の遅延が見られた。したがって、COS-1細胞やHeLa細胞においても、Chk過剰発現血液系細胞株と類似した多形核・多核化が起こることが分かった。Src型キナーゼが分裂期染色体の動態に重要な役割をもち、染色体と紡錘糸のチロシンリン酸化の変動が、核の分裂に影響を与えている可能性が考えられる。
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