研究概要 |
グリオーマはヒト脳腫瘍の中でも最も悪性な難治性腫瘍であり、強い脳実質内浸潤様式によって特徴づけられている。本研究課題では、細胞外マトリックス分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)遺伝子ファミリーの10種類の分子種とインヒビターである2種類のTIMPにつき、グリオーマでの発現と産生レベル、発現細胞の同定、組織内での酵素活性を検出するとともに、脳の主要プロテオグリカンであるブレビカンのMMPによる分解を検討した。得られた主な結果は、以下の通りである。 (1).ヒトグリオーマ組織ホモジネート中のMMP-2, 8, 9は非腫瘍部より有意に高値であった。これらの産生量とグリオーマの浸潤やgradeとは相関しなかったが、proMMP-2の活性化率はgradeと正の相関を示した。 (2).MT1-MMPとMT2-MMPのmRNA発現量はグリオブラストーマで有意に高くproMMP-2活性化率と相関するのに対し、MT3-MMP発現量は極めて低値で活性化率とは相関しなかった。免疫組織染色では、グリオブラストーマ細胞にMT1-MMPとMT2-MMPが強く局在し、in situ zymographyでゼラチン分解活性が腫瘍部に証明された。これらのデータから、MT1-MMPとMT2-MMPで活性化されたMMP-2活性がグリオブラストーマの浸潤に重要と推定された。 (3).ブレビカンのMMP-1, 2, 3, 7, 9, 10, MT1-MMP,MT3-MMPによる分解作用を検討したところ、MMP-1, 2, 3, 7, 10がブレビカン分解活性を示した。これらのMMPは、よく似た分解産物を形成し、いずれもブレビカンのAla^<360>-Phe^<361>ボンドを共通して切断した。また、これらのうちMMP-7は最も強い分解活性を示した。
|