抗癌剤耐性の分子メカニズムを解明するために、シスプラチン耐性細胞で親株に比べて発現が亢進している遺伝子の検索をまず行なった。そうした遺伝子として、損傷DNAの識別・修復に関与するHMG1、転写因子のYB1やStat3、さらに損傷DNAの切除・修復に関わるERCC1などについて、転写制御を解析したところ、ERCC1を除く遺伝子で、転写因子の結合様式の微妙な変動がみられたのに対し、ERCC1遺伝子ではそうした転写因子結合の変動を検出できなかった。そこで、耐性細胞特異的な発現亢進の分子メカニズムの特殊的なケースとして、クロマチン構造変化を想定して実験を行なったところ、ERCC1のみならず上記のすべての遺伝子で、クロマチン構造が活性化していることが判明した。すなわち、ERCC1遺伝子以外で観察された転写因子結合様式の微細な変動は、クロマチン構造の変化に伴う二次的なものであり、耐性細胞特異的発現亢進の鍵をにぎる第一義的な分子メカニズムは、クロマチン構造の活性化であり、当初想定していた転写因子の量的・質的変化は、副次的なものであるとの結果を得た。各遺伝子の耐性細胞株での発現亢進の程度は一様ではないが、マイクロコッカル・ヌクレアーゼ(以下MNase)の切断点の解析から検出される活性化レベルの程度と非常によく相関した。 親株細胞のMNase切断点は、Linker部位に集中的に観察されるのに対し、耐性株細胞ではヌクレオソーム内部にも切断点が分布しており、より低濃度のMNaseにおいても有意の切断シグナルが得られた。これらの観察は、耐性株細胞ではよりOpenな活性ヌクレオソーム構造へと変換していることを示唆している。しかし、個々の遺伝子のMNase切断点を詳細に検討すると、こうした不活性→活性ヌクレオソームへの変換のみならず、遺伝子核内立体配置の変換や核マトリックスへの結合様式の相違等も想定され、多種類のModulation Systemsの関与が示唆される。
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