タンパク質のGln-Lys残基間にイソペプチド結合による架橋を形成する酵素の一員である組織トランスグルタミナーゼ(tTGase)が、細胞の核において転写因子Splを架橋、凝集、不活性化することによりアポトーシスを引き起こすことを見い出した。tTGaseにより精製Splを架橋すると、標的DNA配列であるGCボックスへの結合能とGCボックスを有するリポーター遺伝子の転写活性化能が消失した。同様の現象は、tTGaseを強制発現したNIH3T3細胞やレチノン酸処理によって内在性TGaseの発現を高めたヒト白血病細胞株HL60、肝癌細胞株HuH7においても観察された。tTGaseを高発現する細胞はSplの活性消失と並行してクロマチンの断片化と凝集を伴うアポトーシスに陥いった。この時、カスパーゼインヒビターによってクロマチンの断片化を抑えても、クロマチン凝集を伴う細胞死自身を抑えることはできなかった。これに対して、Splを強制発現してSplの機能を元のレベルにまで回復させるとクロマチンの断片化と凝集の両方を防ぐことができ、アポトーシスが起こらなかった。以上の結果から、tTGaseによるSplの架橋、凝集、不活性化は、カスパーゼ非依存性の新しい細胞死の機構ではないかと考えられた。 アポトーシスの形態学的2大特徴は、クロマチンの凝集と断片化である。断片化についてはカスパーゼを介する分子機構がよく研究されているが、凝集については昨年発表されたacinus以外その分子機構はよくわかっていない。今回の発見は、このクロマチン凝集の分子機構に核内tTGaseによる転写因子やヒストンタンパク質などの核内タンパク質の架橋、凝集が関わっていることを示唆するものであり、「細胞の糊付け死(Gluenasis)」と名付けることを提案する。
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