研究概要 |
我々は抗体産生細胞1B10.7の産生する抗体を酵素消化することにより抗原認識最小単位である抗DNS Fvフラグメントの作成に成功し,さらに,そのFvが他のFvに比べ高い安定性を有することを示した.したがって,抗DNS Fvに対して,遺伝子工学的にそのCDR領域の変換(CDR grafting)を施せば,安定でかつ,がん診断・治療等に有用な抗体フラグメントを得ることが可能となる.そこで本研究では,抗DNS Fvの安定化機構の解明を行った.まず,均一安定同位体(^<13>C and/or ^<15>N)標識抗DNS Fvを作成するとともに,多くのアミノ酸選択的安定同位体標識Fvアナログを作成し,NMR解析を行うことで,その主鎖アミド基由来のNMRシグナルの99%について帰属を完了した.帰属されたシグナルを利用し,NMR法により様々な動的構造の解析を行うことで,抗DNS Fv分子を構成するV_H,V_Lの2つのドメインは,その動的特性に顕著な違いが見られることが明らかとなった.さらにこの相違が分子内部のドメイン界面に存在するアミノ酸残基の疎水性度合(hydropathy)によく対応していることが判明した.また,ハプテンであるDNS-Lysを添加することで,Fv分子の安定性が著しく増大することも示された.これらの結果は,安定なFv分子の作成のための重要な指針になると考えられる.
|