本年度は主に、5-FUの感受性を規定する諸因子について解析を行なった。具体的には5-FUによるDNA障害に対する細胞応答が、p53やミスマッチ修復能とどのように関連しているのかを、複数の癌及び正常線維芽細胞株を用いて詳細に検討した。その結果、p53は細胞周期の変化には大きく関与しているものの、5-FU感受性を直接規定するものではないことが明らかになった(投稿中)。また、5-FUの標的酵素であるチミジル酸合成酵素が同様に抑制されている状態では、ミスマッチ修復異常細胞は正常細胞に比較して5-FU感受性が低く、ミスマッチ修復が5-FU感受性規定因子として関与している可能性が示唆された(投稿中)。さらにミスマッチ修復遺伝子MSH2のノックアウトマウス由来の胚線維芽細胞株と正常細胞を用いて5-FU感受性を比較した結果、正常細胞の方がMSH2遺伝子欠損細胞よりも5-FU感受性が高いことが明らかになった。今後、他のミスマッチ修復遺伝子欠損細胞を用いて同様の検討を行なうとともに、これらの遺伝子欠損株に遺伝子導入し、ミスマッチ修復能を回復させた場合の5-FU感受性についても検討する予定である。 なお、マイクロサテライト不安定性解析によりミスマッチ修復能を正確にこれを評価する方法を確立してきたが、既に800例以上の症例に関して解析を終了した。特に、胃癌、大腸癌、食道癌では多数の陽性症例を同定するに至っている。これらの症例ではp53遺伝子変異の有無も確認しており、将来的にはp53やミスマッチ修復能と化学療法の奏功度との関連を議論できるものと考える。このように、DNA修復能を正確に評価する基本解析系の開発を軸とし、これを用いた細胞株、臨床検体両者の解析を両輪として研究を進めている。今後はDNA修復遺伝子以外の因子にも注目し、抗癌剤感受性を規定する遺伝子学的諸因子の同定に向けて研究を進めていきたい。
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