癌関連遺伝子産物による癌細胞特異的細胞死の分子機構は、新しい癌の分子標的治療を開発する上で魅力的な分子標的である。我々は、癌原遺伝子産物Myc-family蛋白質によるアポトーシス誘導機構を解析してきた。本研究では、癌治療の分子標的としてMycとストレスキナーゼ、JNKに注目し、紫外線、抗癌剤等によるストレス反応性シグナルとMyc依存的アポトーシスの相関を明らかにするとともに、癌細胞に特徴的な細胞死の新たな分子機構を解明し、その結果を癌の分子標的治療法の開発に応用することを目的としている。 癌原遺伝子産物c-Mycの過剰発現により、癌細胞は紫外線やシスプラチン、タキソールなどの抗癌剤によるアポトーシス誘導に高感受性を示す。この際に、ストレスで活性化されるc-Jun N-terminal kinase(JNK)やp38MAPKが機能していることが我々の研究から明らかになってきた。本研究では、特にJNKが、c-Myc蛋白質の転写活性化ドメインの62番目と71番目のセリン残基を直接リン酸化することで、c-Myc依存的アポトーシスのデスシグナルを伝達していることが明かにされた。これらの知見は、シスプラチン、タキソールなど抗癌剤による細胞死誘導シグナルとして、JNK-c-Mycのカスケードが機能していることを示しており、c-myc過剰発現癌細胞に対する特異的治療薬の標的部位としてこのシグナル伝達系の活性化が有望であることが示唆された。
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