研究概要 |
フェロモン腺におけるカイコPBANの外部シグナルは膜表面レセプターに伝えられた後、細胞外カルシウムイオンの細胞内流入、カルモジュリン、カルシニューリンを介し、ボンビコール生合成の最終酵素であるアシルCoAレダクターゼを活性化することで細胞内シグナル伝達が完了する。そこで、PBANによって調節されるボンビコール産生のメカニズムを分子および細胞レベルから解析した。まず、ボンビコール産生細胞の細胞質に存在する油滴状顆粒に着目し、その成分をアセトンに浸出させた後、HPLCで分離し、各ピークをFAB-MSで構造解析したところ、ボンビコール前駆体のC16:1,C16:2の脂肪酸およびオレイン酸、リノール酸、リノレン酸を構成脂肪酸とする様々な分子種からなるトリアシルグリセロールであることが明らかとなった。したがって、この顆粒はボンビコール前駆体の細胞内貯蔵物として機能するものと考えられた。そこで、この顆粒の形成過程を電顕で詳細に検討した結果、ボンビコール産生細胞では羽化1日前に基底膜から大規模な物質の流入が起こり、それに伴って顆粒が形成されることがわかった。顆粒の構成脂肪酸が必須脂肪酸を含むことから、これらの脂肪酸を持つ何らかのグリセライドが基底膜より流入し、denovoで作られたボンビコール前駆体を取り込むことで油滴状顆粒が形成されるものと推察された。また、ボンビコール産生に関与する機能分子としてフェロモン腺cDNAライブラリーよりアシルCoA結合タンパク質、アシルCoAデサチュラーゼ、カルシニューリン遺伝子をクローニングし、ノーザン分析を行ったところ、これらの遺伝子は油滴状顆粒形成時の羽化1日前に大量に発現されることが明らかになった。したがって、ボンビコール産生細胞ではボンビコールの産生に向けて羽化1日前にダイナミックな変化が一斉に起こるものと考えられた。
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